February 2013 Journal of Japanese Botany Vol. 88 No.1 61 J. Jpn. Bot. 88: 61–63 (2013) カワゴケソウ(カワゴケソウ科)の新北限産地(瀬野純一a, *,服部昌樹b) a京都府立農芸高等学校 622-0059 京都府南丹市園部町南大谷 b454- 愛知県名古屋市 Junichi senoa, * and Masaki hattori b: The Northernmost Locality of Cladopus japonicus Imamura (Podostemaceae) a Nougei High-School, Minami Otani, Sonobe, Nantan, Kyoto, 622-0059 JAPAN; b Nagoya, Aichi, 454- JAPAN * Corresponding author: [email protected] Summary: Cladopus japonicus Imamura (Podostemaceae) was newly found in Kijô- cho, Miyazaki Pref., southern Japan. This is the northernmost locality of this species in Japan. Differing from the other Japanese members of the family, plants belonging to this species were found on the concrete-paved surface of an agricultural waterway. カワゴケソウCladopus japonicus Imamuraは, カワゴケソウ科の水性の多年草で,葉状体とい われる根を岩の表面に固着させて成長し,冬に1 mm程度の花を咲かせる目立たない植物である. 現在までにその自生地は,鹿児島県のみ(川内川 水系,志布志川水系,天降川水系)でしか報告は Fig. 1. Distribution of Cladopus japonicus in southern なく,環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧 Kyushu, Japan. 植物(ランク1A(CR))に指定されている.今回, 鹿児島県以外にて新たな生育地を確認したのでこ こに報告する(Fig. 1). きれいな流水が流れる川に自生しているといわれ 自生地は,宮崎県児湯郡木城町にある,小丸川 ているが,本自生地は農業用水路であり,周囲の の近くを流れる幅約4 m程度の農業用水路で,三 農業廃水が混入している可能性がある場所の生育 面共にコンクリートで舗装され,底面については である.さらに,三面共にコンクリート張りの川 大きな玉砂利の洗い出しが施してある場所である という環境は,日本におけるカワゴケソウ属の自 (Fig. 2).カワゴケソウはその水路で,土砂があ 生地の中では自然度が一番低いのではないかと思 まり堆積しない程度の流水がある場所で約200 m われる. にわたり底面および側面の舗装された表面に固着 現在,カワゴケソウの分布は鹿児島県のみで, している(Fig. 3).時折コンクリートのつなぎ目 その多くは西寄りに見られる.しかし,今回,発 のゴムや川底に落ちていた鉄製の釘に固着してい 見した自生地は九州の東側にあることに加え,こ る場合も見られた.水路の流水の多くは,小丸川 れまで北限地として確認されていた川内川水系の より取水した水が流れ再び小丸川に排水している 自生地より北に位置している.よって,今回,発 ものである.カワゴケソウは一般に自然度が高く, 見した自生地は,日本におけるカワゴケソウの分 62 植物研究雑誌 第88巻 第1号 2013年2月 Fig. 2. Habitat of Cladopus japonicus in Kijô-cho, Miyazaki Pref., southern Kyushu, Japan. 布で最も北の産地となる.また,今回の新産地は ができるかを知る重要な資料となるものである. 一番近くにある川内川水系の自生地からは直線距 新産地のカワゴケソウの開花期については早く, 離にして約80 kmの距離であり,九州山地をま 9月下旬から開花を始めるなど他の自生地のカワ たいだ反対側に位置し,九州で同じ東側の自生地 ゴケソウには見られない特徴も見られる.したが である志布志川水系の自生地からも直線距離にし って地理学上および分類学上の観点から今後のさ て約80 km離れている位置である.このことから, らなる研究を期待すると同時に,この貴重な自生 その分布についても学術的に大変貴重な資料とな 地を早急に手厚く保護する方策を期待する. りうる自生地である.さらに,今回の新産地はコ なお,証拠標本は大本花明山植物園(OOM) ンクリートといった人為構造物の上に自生してい に納めた. ることからカワゴケソウがどのような環境で生育 Cladopus japonicus Imamura in J. Jap. Bot. 5: 60 (1928). Voucher specimen: JAPAN. Kyushu. Miyazaki Perf., Koyu-gun, Kijô-cho, Shiinoki, 32°10′N 131°27′E, alt. 20 m, 24 Sept. 2006, J. Seno 100101 (OOM 149901). 引用文献 今村駿一郎 1928.我日本にて始めて発見せられし珍 植物かわごけさう.植物研究雑誌 5: 50–62. 大滝末男,石戸 忠 1980.日本水生植物図鑑.107 pp. 北隆館,東京. 鹿児島県環境生活部環境保護課 2003.鹿児島県の絶 滅のおそれのある野生動植物鹿児島県レッドデータ ブック植物編.244 pp. 財団法人鹿児島県環境技 Fig. 3. Cladopus japonicus in Kijô-cho, Miyazaki 術協会,鹿児島. Pref., southern Kyushu, Japan. Bar: 1 cm. Kato M. and Kita Y. 2003. Taxonomic study of February 2013 Journal of Japanese Botany Vol. 88 No.1 63 Podostemeceae of China. Acta Phytotax. Geobot. 新 敏夫 1954.日本及び中国のカワゴケソウ科新知 54(2): 87–97. 見.植物研究雑誌 29: 9–14. 角野康郎 1994.カワゴケソウ科.日本水草図鑑.pp. 新 敏夫 1976.カワゴケソウ科.世界の植物 4: 124–127.文一総合出版,東京. 1063–1064.朝日新聞社,東京. 環境庁自然環境局野生生物課編 2000.改訂・日本の 新 敏夫 1982.カワゴケソウ科.佐竹義輔,大井次 絶滅のおそれのある野生生物8 植物Ⅰ(維管束植 三郎,北村四郎,亘理俊次,富成忠夫(編),日本 物).131 pp. 財団法人自然環境センター,東京. の野生植物 Ⅱ: 213–214.平凡社,東京. Qui H.-X. and Phibrick C. T. 2003. Podostemaceae. 野呂忠秀,鈴木廣志,藤田忠士,金山敏秀 1993.日 Flora of China 5: 190–191. Sciense Press, Beijing 本産カワゴケソウ科の分布.植物研究雑誌 68: and Misourri Botanical Garden, St. Loius. 253–260. 新 敏夫 1953.日本産カワゴケソウ科図説III.広島 堀田 満 1992.カワゴケソウの仲間たちの現状.プ 大学生物学会誌 5: 31–38. ランタno. 23: 25–36.