本書は,大学初年級で学ぶ数学の基礎である微分積分と線形代数を用いて,リ一群とリ一環につ
いて解説することを目的としている.リ一理論は,リ一群とそのリ一環を舞台とする,微分積分と
線形代数の両方が交差する魅力的な数学である.
リ一群とリ一環は大学の学部の標準的コースでは教えられないが,大学院レベルになると常識と
して必要になってくる重要な話題であり,これについて問題演習を通して自習できる書籍を書いて
もらいたいというお話を頂いた.リ一群とリ一環,そしてその表現論は,数学の様々な分野や物理
学に現れること,また,具体例が豊富であり,実例の計算を通して身に着けていけることから,企
画に賛同して執筆をお引き受けした.
本書で取り扱うのは,リ一理論(行列のリ一群とそのリ一環の対応)とカルタン・ワイル理論(コ
ンパクトリー群,複素半単純リ一環の有限次元表現論)である.
リ一群のうち行列のなす群に限って,リ一理論を学部程度の数学を用いて展開するという本書の
方針は,フォン・ノイマンの論文l羽l に端を発するもので,[ 12], [18, Introduction], [19], [29], [35],
[39]によって整備された道筋を本書ではたとε った.行列の群やリ一環の実例を豊富に盛り込んだが,
例に終始するだけでなく,位相や多様体など微分積分・線形代数を越える事項も含めて,リ一理論
をきちんと解説するよう努めた.筆者自身が学生時代に[ 32] , [2], [5 ]でリ一理論を学んだのとは少
し違う道筋をたどるのは,楽しい経験だ、った.
カルタン・ワイル理論については,群ではSU(2 ) とSU(3 ) ,リ一環では.sC(2 , C) と.sC(3 , C) の
場合に限って,既約有限次元表現の分類について解説した.ルート系,ワイル群,表現などの概念
は,まず具体的な群やリ一環で計算してみるほうが,少ない労力で考え方をつかむことができ,表
現の初歩を学ぶことにより,リ一群やリ一環の構造論の必要性が理解しやすくなると考えたからで
ある.対象とするリ一群やリ一環の表現の取り扱いについて,[ 7], [8], [17], [37 ]を参照した.
本書のリ一理論の部分は,関西学院大学大学院での講義と連動して準備した.受講者は,数学系
の大学院生とはいえ専門は様々であり,多くの予備知識を前提とすることはできない.受講者たち
に理解してもらえる内容を念頭に執筆した.
演習問題は本文や例題を理解していれば無理なく解ける水準を意図して与えたが,読者の便宜の
ため,いくつかについて巻末に方針,ヒントを記した.