岩波講座現代数学の基礎 Lie群と Lie環 1 小林俊行・大島利雄著 (, 岩波書店 v まえカミき 本書の目的は,初学者を対象に, Lie群・ Lie環やその表現論の基本的な考 え方と手法を伝えることである. 本書が出版される 1999年は, Lie理論の創始者である SophusLieの没後 100年目にあたる. S. Lieの後を承けた の100年間,すなわち 20世紀全般 ζ にわたって, Lie群・ Lie環やその表現論比関数解析,徴分方程式,保型形 ι 式,徴分幾何,代数幾何, トポロジー,組合せ論,数理物理学などと結びつ いて相互に発展し,現代数学の多くの分野を結びつける重要な鍵になってい る.本書は,専門家を目指す学生だけでなく,とのように広範な分野にわた る読者を想定して書かれた行列群の具体例を多く用い,できるだけ少ない 予備知識で重要な結果や本質的なアイディアに到達できるように,様々な新 しい工夫を試みた. 本書の題目にあるもie群”とは,現代風にいえば\多様体の構造をもっ群 である.例えば, Euclid 空間 ~n は加法群とみると Lie 群となる.また,一 般線型群 GL(n,~)〆や直交群 0(η)も Lie 群の例である. Lie群を局所的に考 〈編集委員〉 えた代数構造が Lie環である. 青本和彦 Lie群・ Lie環に関する研究を大きく 2つに分けると, 1つは“内部”の研 上野健爾 究,すなわち, Lie群や Lie環あるいは等質空間自身の構造や性質の研究で 加藤和也 あり,もう 1つは“外部”の研究,すなわち,作用の研究(変換群論),特に 神保道夫 ベクトル空間への線型な変換の研究(表現論)である. もちろん,これらは表 砂田利一 裏一体となって発展してきたのである.~ 高橋陽一郎 さて,数学の他の分野と Lie群や Lie環が結びつくのは,その“表現”を通 深谷賢治 してという場合が多い.従(って本書では, Lie群や Lie環の“内部”に相当す 俣 野 博 るLie理論と同時に,“外部”に相当する表現論を重視して執筆した.特に, いまのととろ適当な入門書がない BorelWeil理論やユニタリ表現論などの vi一一一ーまえがき VJ.J. 基礎的な考え方も紹介した 本書は,辞典としてではなく,読み通すととを前提に書かれている.初学 理論の概要と目標 者は,第 1章から第 13章まであせらずにじっくりと通読するのが好ましい が,興味に応じて,いくつかの章を抜き出して読むことも可能である.例え ば以下は,それぞれほぼ 1学期の講義の分量に相当する内容であろう. 野山に咲く花の形や天然に産する鉱物の美しい結品には対称性を備えてい • 1→(2)→ 3→ 4 コンパクト群の Peter-WeyIの定理 るものが多い.そもそも,対称性とは何だろうか? ・(1,3)→ 5→ 6→ 7 Lie群, Lie環,等質空間 1つの図形を動かして,もとの図形とぴったり重ね合わせられれば,その ・(3,4,6,7)→ 8→ 9 古典群の有限次元表現論 図形にある種の対称性を感じる.例えば,正方形を重心のまわりに 90度回 • (5)→ 6→ 10 多様体やファイパ一束への群作用 転させると,もとの正方形にぴったり重なる. とれは正方形の対称性を表し • 2→ 10→ 11 Fourier 解析とり(n,~)の既約ユニタリ表現 ている.ぴったり重ね合わせる動かし方は,もとの図形の自己同型を与える ・8→ 10→ 12→ 13 Borel Weil理論 変換である. このような変換の合成は,再び変換を与える. もとの図形を忘 れて,変換の合成法則だけを抽象したのが群の概念である.例えば,正方形 本書では,本講座の多くの分冊が何らかの形で引用されている.とれは, を90度回転させるという変換Tを4回繰り返すと,恒等写像になる.従っ 本書を読むために多くの予備知識が必要であるという意味ではなく,より広 zI て, Tで生成される群は有限巡回群 4'1lである.正方形と正六角形の対称 い視野で Lie群論や表現論を理解しようという動機になってほしいという希 性の違いは,変換群の群構造に現れている. 望からである. もっと対称性が高い図形を考えてみよう.例えば,円板は重心のまわりに 本書の執筆は,第 1章から第4章までと第2分冊を小林が,第 5,6章を 任意の角度の回転をさせてもぴったり重なる.従って,連続なパラメータを 大島が担当したまた,青本和~,飯田正敏,岡田聡ー,落合啓之,示野信 coo もっ(円板の)変換の族が定義できる.さらに 級に回転させることもでき 一,杉浦光夫,関口英子,谷口健二西山享,橋本義武,山本敦子の諸先生 る. とれを正確に定式化すると,位相群や Lie群やその作用という概念に到 方(五十音!||買)は,原稿の一部あるいは全部に目を通して貴重など意見をくだ 達する.大まかにいうと,位相群は「連続性」が定義できる群であり, Lie さった. これら多くの方々の力でとの本はできたのであり,との場を借りて 群は「微分」が定義できる群である. 厚くわ礼を申し上げます. さて,線型変換は最も簡単な変換である.群がベクトル空聞に線型変換と 最後に,本書の出版に際し,多大な励ましとど助力をいただいた岩波書店 して作用しているとき,その作用を表現という.従って,表現は最も簡単な 編集部の方々に心から感謝を述べたいと思います. 作用といえる.逆に,群Gの空間Xへの作用を与えたとき, X上の関数空 1999年2月 間を考えることにより群Gの表現が得られる.そこで,位相群や Lie群を理 小林俊行・大島利雄 解する上で,その内在的な構造論と同時に,変換群としての作用や表現論を 付記.初刷出版後に見つかったいくつかの誤りのみを 2刷で修正した誤りを 展開することが重要である. ご指摘くださった有川英寿,土居正明,野崎亮太,真野元,吉野太郎の各氏に 第 1分冊の主テーマは,「位相群とその表現論」および「Lie群や Lie環に 感謝します. vi一一一ーまえがき VJ.J. 基礎的な考え方も紹介した 本書は,辞典としてではなく,読み通すととを前提に書かれている.初学 理論の概要と目標 者は,第 1章から第 13章まであせらずにじっくりと通読するのが好ましい が,興味に応じて,いくつかの章を抜き出して読むことも可能である.例え ば以下は,それぞれほぼ 1学期の講義の分量に相当する内容であろう. 野山に咲く花の形や天然に産する鉱物の美しい結品には対称性を備えてい • 1→(2)→ 3→ 4 コンパクト群の Peter-WeyIの定理 るものが多い.そもそも,対称性とは何だろうか? ・(1,3)→ 5→ 6→ 7 Lie群, Lie環,等質空間 1つの図形を動かして,もとの図形とぴったり重ね合わせられれば,その ・(3,4,6,7)→ 8→ 9 古典群の有限次元表現論 図形にある種の対称性を感じる.例えば,正方形を重心のまわりに 90度回 • (5)→ 6→ 10 多様体やファイパ一束への群作用 転させると,もとの正方形にぴったり重なる. とれは正方形の対称性を表し • 2→ 10→ 11 Fourier 解析とり(n,~)の既約ユニタリ表現 ている.ぴったり重ね合わせる動かし方は,もとの図形の自己同型を与える ・8→ 10→ 12→ 13 Borel Weil理論 変換である. このような変換の合成は,再び変換を与える. もとの図形を忘 れて,変換の合成法則だけを抽象したのが群の概念である.例えば,正方形 本書では,本講座の多くの分冊が何らかの形で引用されている.とれは, を90度回転させるという変換Tを4回繰り返すと,恒等写像になる.従っ 本書を読むために多くの予備知識が必要であるという意味ではなく,より広 zI て, Tで生成される群は有限巡回群 4'1lである.正方形と正六角形の対称 い視野で Lie群論や表現論を理解しようという動機になってほしいという希 性の違いは,変換群の群構造に現れている. 望からである. もっと対称性が高い図形を考えてみよう.例えば,円板は重心のまわりに 本書の執筆は,第 1章から第4章までと第2分冊を小林が,第 5,6章を 任意の角度の回転をさせてもぴったり重なる.従って,連続なパラメータを 大島が担当したまた,青本和~,飯田正敏,岡田聡ー,落合啓之,示野信 coo もっ(円板の)変換の族が定義できる.さらに 級に回転させることもでき 一,杉浦光夫,関口英子,谷口健二西山享,橋本義武,山本敦子の諸先生 る. とれを正確に定式化すると,位相群や Lie群やその作用という概念に到 方(五十音!||買)は,原稿の一部あるいは全部に目を通して貴重など意見をくだ 達する.大まかにいうと,位相群は「連続性」が定義できる群であり, Lie さった. これら多くの方々の力でとの本はできたのであり,との場を借りて 群は「微分」が定義できる群である. 厚くわ礼を申し上げます. さて,線型変換は最も簡単な変換である.群がベクトル空聞に線型変換と 最後に,本書の出版に際し,多大な励ましとど助力をいただいた岩波書店 して作用しているとき,その作用を表現という.従って,表現は最も簡単な 編集部の方々に心から感謝を述べたいと思います. 作用といえる.逆に,群Gの空間Xへの作用を与えたとき, X上の関数空 1999年2月 間を考えることにより群Gの表現が得られる.そこで,位相群や Lie群を理 小林俊行・大島利雄 解する上で,その内在的な構造論と同時に,変換群としての作用や表現論を 付記.初刷出版後に見つかったいくつかの誤りのみを 2刷で修正した誤りを 展開することが重要である. ご指摘くださった有川英寿,土居正明,野崎亮太,真野元,吉野太郎の各氏に 第 1分冊の主テーマは,「位相群とその表現論」および「Lie群や Lie環に 感謝します. viii一一一理論の概要と目標 理論の概要と目標 ix 関する一般論」の 2つである. %:>', Lie群やその等質空聞に対する不変積分は,徴分形式を用いて具体的に 第 1章から第4章までは,位相群とその表現論を主題とし, PeterWeyl 定義することができるは 6.4). ‘ の定理を 1つの頂点として組み立てられる. 乙の定理は, トーラス群Tに対 第 4章では, PeterWeylの定理をいくつかの側面から掘り下げて解説す する古典的な Fourier級数論を,可換とは限らないコンパクト群Gに拡張し る.具体的には,正則表現L2(G)の既約分解,行列要素による連続関数の一 た結果である.そとてう第2章では, Fourier級数と Fourier変換を,まず古 様近似定理ヲー L2−ノルムに関する ParsevalPlancherel型の定理, Fourier変 典的な解析の立場で簡単に紹介する.次に,表現論的な解釈として,調和振 換と逆 Fourier変換に対応する写像の明示公式,*ー環としての代数構造など 動子 eA~t は可換群 T および R の既約ユニタリ表現であり,可換群 T や R である.さらに, PeterWeylの定理を用いて,「コンパクト群が Lie群の構 のユニタリ表現L2(1')や L2(JR)の既約分解が Fourier級数(変換)によって与 造をもつための必要十分条件はそれが GL(n,IR)の部分群として実現できる乙 えられるということに注目する.特に,調和振動子 {ev=Int:ηεZ}の完備 とである」という定理を証明する. Peter Weylの定理は Stone-Weierstrass 性(定理 2.4)と Tの既約ユニタリ表現の分類(定理 2.3)が表裏一体となって の定理を使う方法(§ 4. 2)とコンパクト作用素を用いる方法(§ 4. 3)の 2種類 いることが,第4章で述べる PeterWeylの定理の柱になる. の証明法を解説する.いずれも解析学の長い歴史の中で育まれてきた重要な 次に, ]Rnの変換群としてアフアイン変換群GL(n,IR)~くIR”を考えると, 考え方が多く盛り込まれている. L2(IRn)は既約ユニタリ表現になる さらに一般に, IRncG c G L(n, IR) 1><1Rn 第 5章では, Lie群の一般論を展開する. Lie群の導入の仕方は大きく分 cw cw となる群Gのユニタリ表現L2(JRn)の既約性が「群の作用のエルゴード性」 けて 2通りある. 1つは, 級の群j寅算が定義された 多様体として Lie _ という幾何的な条件によって判定される(§ 2. 2). この判定条件は, Hardy空 群を定義する導入法(§1. 4)である. もう 1つは一般線型群 GL(n,IR)の部分 聞が定義できる根拠を与え,また, GL(n,IR)の無限次元既約ユニタリ表現 群あるいはそれと局所同型な位相群を Lie群の定義とする導入法(§ 5. 1)であ 論(第 11章)の準備としての役割も担う. る.前者は Lie群を内在的にとらえ,後者は Lie群を(IRnの)変換群としてと さて, トーラス群Tにおける Fourier級数論を可換とは限らないコンパク らえた考え方である.第5章では後者の定義から出発し,最終的に前者の定 cw ト群Gに一般化するには, 義に一致することを証明する.その根幹は,「GL(n,IR)の閉部分群は ー部 (i ) 調和振動子 ev=T~t に対応する「良い関数」を群 G 上定義する 分多様体の構造をもっ」という vonNeumannの定理と「有限次元の Lie環 (ii ) Lebesgue積分に対応する「積分」の概念を群G上で定義する は忠実な表現をもっJという Ado岩揮の定理である. とのとき, Lie群の多 という 2点が必要になる. とれが第3章の主題となる. (i)に対応するのは既 様体としての座標は行列の指数写像で定義される. 約表現の行列成分であり,(ii)に対応するのは Haar測度である. Lie群Gを多様体とみたとき,単位元の接空間g:=TeGには Lie群の積 l さて,変換群に関して積分するという概念比独楽(コマ)に絵を描いて回 構造を反映するブラケット積[ ' ii~定義される.ブラケット積は, Jacobi :l 転させたときに平均された色模様を想像すればわかりやすいだろう. しかし, 律を満たす歪対称双線型写像[' g×g→gであり, gをLie群GのLie環 初学者にとっては,群上の積分の数学的なイメージがつかみにくいかもしれ という(§ 5. 3). G= GL(η,IR)ならばg竺 M(nぅIR)であり,ブラケット積は ない.そこで,第3章では, Haar測度の種々の具体例を通して群上の積分 [X,Y]=XY-YXで与えられる.連結Lie群 Gが複素 Lie群の構造をもっ に慣れることに重点をおき,その後, Schurの直交関係式(§ 3. 3)や指標の基 必要十分条件は, Lie環 gが複素 Lie環であることである(§ 6. 2). 本的性質(§ 3. 4)など,行列要素と不変積分に関わる基本定理を解説する.な Lie群の局所的な構造は Lie環で一意的に決定されるというのが Lie理論 viii一一一理論の概要と目標 理論の概要と目標 ix 関する一般論」の 2つである. %:>', Lie群やその等質空聞に対する不変積分は,徴分形式を用いて具体的に 第 1章から第4章までは,位相群とその表現論を主題とし, PeterWeyl 定義することができるは 6.4). ‘ の定理を 1つの頂点として組み立てられる. 乙の定理は, トーラス群Tに対 第 4章では, PeterWeylの定理をいくつかの側面から掘り下げて解説す する古典的な Fourier級数論を,可換とは限らないコンパクト群Gに拡張し る.具体的には,正則表現L2(G)の既約分解,行列要素による連続関数の一 た結果である.そとてう第2章では, Fourier級数と Fourier変換を,まず古 様近似定理ヲー L2−ノルムに関する ParsevalPlancherel型の定理, Fourier変 典的な解析の立場で簡単に紹介する.次に,表現論的な解釈として,調和振 換と逆 Fourier変換に対応する写像の明示公式,*ー環としての代数構造など 動子 eA~t は可換群 T および R の既約ユニタリ表現であり,可換群 T や R である.さらに, PeterWeylの定理を用いて,「コンパクト群が Lie群の構 のユニタリ表現L2(1')や L2(JR)の既約分解が Fourier級数(変換)によって与 造をもつための必要十分条件はそれが GL(n,IR)の部分群として実現できる乙 えられるということに注目する.特に,調和振動子 {ev=Int:ηεZ}の完備 とである」という定理を証明する. Peter Weylの定理は Stone-Weierstrass 性(定理 2.4)と Tの既約ユニタリ表現の分類(定理 2.3)が表裏一体となって の定理を使う方法(§ 4. 2)とコンパクト作用素を用いる方法(§ 4. 3)の 2種類 いることが,第4章で述べる PeterWeylの定理の柱になる. の証明法を解説する.いずれも解析学の長い歴史の中で育まれてきた重要な 次に, ]Rnの変換群としてアフアイン変換群GL(n,IR)~くIR”を考えると, 考え方が多く盛り込まれている. L2(IRn)は既約ユニタリ表現になる さらに一般に, IRncG c G L(n, IR) 1><1Rn 第 5章では, Lie群の一般論を展開する. Lie群の導入の仕方は大きく分 cw cw となる群Gのユニタリ表現L2(JRn)の既約性が「群の作用のエルゴード性」 けて 2通りある. 1つは, 級の群j寅算が定義された 多様体として Lie _ という幾何的な条件によって判定される(§ 2. 2). この判定条件は, Hardy空 群を定義する導入法(§1. 4)である. もう 1つは一般線型群 GL(n,IR)の部分 聞が定義できる根拠を与え,また, GL(n,IR)の無限次元既約ユニタリ表現 群あるいはそれと局所同型な位相群を Lie群の定義とする導入法(§ 5. 1)であ 論(第 11章)の準備としての役割も担う. る.前者は Lie群を内在的にとらえ,後者は Lie群を(IRnの)変換群としてと さて, トーラス群Tにおける Fourier級数論を可換とは限らないコンパク らえた考え方である.第5章では後者の定義から出発し,最終的に前者の定 cw ト群Gに一般化するには, 義に一致することを証明する.その根幹は,「GL(n,IR)の閉部分群は ー部 (i ) 調和振動子 ev=T~t に対応する「良い関数」を群 G 上定義する 分多様体の構造をもっ」という vonNeumannの定理と「有限次元の Lie環 (ii ) Lebesgue積分に対応する「積分」の概念を群G上で定義する は忠実な表現をもっJという Ado岩揮の定理である. とのとき, Lie群の多 という 2点が必要になる. とれが第3章の主題となる. (i)に対応するのは既 様体としての座標は行列の指数写像で定義される. 約表現の行列成分であり,(ii)に対応するのは Haar測度である. Lie群Gを多様体とみたとき,単位元の接空間g:=TeGには Lie群の積 l さて,変換群に関して積分するという概念比独楽(コマ)に絵を描いて回 構造を反映するブラケット積[ ' ii~定義される.ブラケット積は, Jacobi :l 転させたときに平均された色模様を想像すればわかりやすいだろう. しかし, 律を満たす歪対称双線型写像[' g×g→gであり, gをLie群GのLie環 初学者にとっては,群上の積分の数学的なイメージがつかみにくいかもしれ という(§ 5. 3). G= GL(η,IR)ならばg竺 M(nぅIR)であり,ブラケット積は ない.そこで,第3章では, Haar測度の種々の具体例を通して群上の積分 [X,Y]=XY-YXで与えられる.連結Lie群 Gが複素 Lie群の構造をもっ に慣れることに重点をおき,その後, Schurの直交関係式(§ 3. 3)や指標の基 必要十分条件は, Lie環 gが複素 Lie環であることである(§ 6. 2). 本的性質(§ 3. 4)など,行列要素と不変積分に関わる基本定理を解説する.な Lie群の局所的な構造は Lie環で一意的に決定されるというのが Lie理論 x 理論の概要と目標 Xl である. Lie理論によって, Lie群という幾何的な対象を Lie環という代数的 な対象を通して研究することができる. 一方, Lie群の大域的な構造も Lie環によってかなり統制するととができ 目 h ヅ、\ る 連 結 な Lie群の普遍被覆空聞は自然に Lie群の構造をもち,しかも両者 のLie環は同型である.同型な Lie環をもっ連結Lie群は,単連結な Lie群 まえがき −・・..... v の中心部分群によって分類できる(§ 6.1). 理論の概要と目標 −・.. vii 任意の連結 Lie群は,それに含まれている極大なコンパクト部分群とホ モトピ一同値である. §5. 5では,この定理を簡約Lie群(例えば GL(n,C)) 第 l章 位相群の表現 1 の場合に Carもan分解を用いて証明する.次に,コンパクト Lie群の構造は, §1 . 1 位 相 群 ・ ・ 1 極大トーラスと呼ばれる可換部分群を用いて調べることができる.「任意のユ (a) 位 相 群 ・ 1 ニタリ行列は対角化可能で、ある」という線型代数のよく知られた結果は,「連 (b) 位相群の置積,半直積,商群 4 結コンパクト Lie群の任意の元は極大トーラスの元と共役である」という定 §-1. 2 位相群の表現・・.. 9 理に拡張される(§ 6. 5).コンパクト単純Lie群の普遍被覆がコンパクトであ (a) 群の表現をなぜ考えるか 9 るという Weylの定理は,極大トーラスの性質と SU(2)の埋め込みを用いた (b) 表現の定義・ 10 手法で証明される(§ 10. 5では Lie群の deRhamコホモロジー群を用いた別 (c) G−線型写像・ 12 (d) 部分表現,既約表現 13 証明も与える).また,極大トーラスは Weyl群と共にコンパクト Lie群の表 (e) 位相群の連続表現 16 現論で重要な役割を果たす(第89章). ぅ (f) ユニタリ表現・ 17 第 6章のもう 1つの主題は等質空間である. Lie群 Gが多様体X に推移 (g) ユニタリ表現の直和 21 的に作用しているとき, Gのある閉部分群Hによる右剰余類の集合 G/H (h) 無限次元表現の位相について 22 (i) Schurの補題 25 (等質空間)と X との聞に全単射対応が存在する.等質空間G/Hには Lie環 (j ) 既約分解,重複度− 28 の指数写像を用いて多様体の構造を定義するととができる.そして, Lie群 §1 . 3 種々の表現を構成する操作・ 32 の2種類の定義が同等であったのと同じように, G/Hに(内在的に)定義さ (a) ベクトル空間の操作 32 れた多様体の構造と (Gが変換群として作用している)X の多様体の構造が (b) 線型作用素の操作 33 一致する. この定理は,第 2分冊て守は同変ファイパ一束に対して拡張され (c) 群の表現の操作・ 35 §(10. 3), Lie群の様々な表現の構成に用いられる. (d) ユニタリ表現の操作 36 (e) 表現の外部テンソル積 38 (f) ユニタリ表現と反傾表現,共役表現 39 §1 . 4 Hilbertの第5問題 40 (a) ]RNの閉集合と位相群 41 岩波講座現代数学の基礎 Lie群と Lie環 2 小林俊行著 ι 岩波書店 v 理論の概要と目標 物質をどんどん細かく見ると,分子や原子(あるいは素粒子)になる (i ) Lie環において原子にあたるのは,単純Lie環と Rである. (ii) Lie群において原子にあたるのは,単純Lie群と R と31である. (iii) Lie群の作用において原子にあたるのは,等質空間である. (iv) 表現で原子にあたるのは,既約表現である. ι そこで,単純Lie群(環),その既約表現,等質空間上における既約表現の 幾何的実現を第2分冊のテーマとする. これらは, Lie群論, Lie環論,その 表現論で最も基本的な対象である. それでは,本分冊の主な構成を述べよう. 単純Lie群 任意の有限次元 Lie環gに対し, g(i+)が g(i)のイデアルとなる列 1 fJ = g(O)コ g(l)つ…コ gCm)= {O} I を選んで, gCi)g<i + )が単純Lie環あるいは R となるようにできる.そこで, 1 〈編集委員〉 「単純 Lie 環がどのくらい存在するか? J という問題に直面する.実は,(~ 青本和章 上の)単純Lie環は有限個(22個)の例外型 Lie環を除くと,それぞれが無限 上野健爾 個の単純Lie環からなる古典型の 10系列 加藤和也 s[(n,~), sp(n,~), sが(2n),so(ホ2n),so(p, q), su(p, q), sp(p, q), s[(n, <C), so(n, <C), sp(n, <C) 神保道夫 砂田利一 に分類される(E.Cartan, 1914). §7 .1では,これらの Lie環をもっ古典群 高橋陽一郎 を行列群として具体的に与える.そ ζでは,古典群を単に羅列するのではな 深谷賢治 ,く 4つの観点からそれぞれの解説を加え,古典群の理解が深められるよう 俣 野 博 に試みたまた, SO(n)の三重被覆群であるスピノル群は Clifford代数を用 いて構成される(§ 7. 2). vi 理論の概要と目標 理論の概要と目標一一一vii 有限次元既約表現の分類 誘導表現による無限次元表現の構成 Peter Weylの定理(第4章)より,コンパクト群の任意の既約ユニタリ表 コンパクトではない Lie群の既約ユニタリ表現は,有限次元とは限らない. 現は有限次元である.それでは,有限次元既約表現はどのくらい存在するの 無限次元のユニタリ表現をどのように構成すればよいのであろうか? その であろうか? 第 8章と第9章の主題は,コンパクト Lie群の有限次元既約 1つの解答は誘導表現による構成法である.大まかにいうと,誘導表現とは 表現の同値類を分類する と(CartanWeylの最高ウェイト理論)である. 「小さな群の表現から大きな群の表現を構成する」という操作(函手)である. ζ 第8章では,最小限の予備知識でユニタリ群 U(n)の有限次元既約表現を 第 11章のテーマは,等質空間上の同変ファイバ一束を用いて誘導表現を構 分類し,その指標や次元公式も具体的に求める.本書では, U()の Peter- 成し,誘導表現に関わる重要な事項を典型例を通して学ぶととである. η Weylの定理と n次元トーラス F のPeterWeylの定理(Fourier級数論)を さて,誘導表現の既約分解と表現の制限の既約分解(分岐則)はいずれも 比較するという解析的な手法を用いて CartarWeylの最高ウェイト理論を 表現論の基本課題である.コンパクト群の場合には「両者は表裏一体の概念 ト 証明する.非可換群 U(η)と可換群1['nの橋渡しとなるのが Weylの積分公式 である」という Frobeniusの相互律が成り立つ(§ 11.1).その応用例として, であり?積分公式における密度関数が対称式と交代式を結びつけるというの L2(S2) = £2(80(3)/ S0(2))の既約分解を計算する.この結果は古典的な球 が証明のからくりである. 面調和関数の表現論的な解釈にもなっている. 乙の証明法を一般化することによって,第9章では,コンパクトな古典 誘導表現は既約ユニタリ表現を生み出す泉でもある. GL(η,~)などの簡 Lie群の有限次元既約表現を分類する.その過程で,コンパクト Lie群の極大 約 Lie群のかなり多くの既約ユニタリ表現が L2−誘導表現によって構成でき トーラス, Weyl群,ルート系などを具体的な計算とともに解説する. U(n) る(ユニタリ主系列表現). §1 1. 2 では, GL(n,~) のあるユニタリ表現の既 に対する見事な計算が,一般のコンパクト Lie群における美しい理論に昇華 約性と,群の作用のエルゴード牲という幾何的な条件の関連を調べる. してゆく場面を十分に鑑賞してほしい. Weylのユニタリ・トリック 同変ファイパ一束とその切断 Cartan Weylの理論は第9章では解析的手法で証明したが, Lie環の最高 ウェイト表現として代数的な手法で証明することもできる.また,コンパク 同変ファイパ一束は Lie群が変換群として作用しているファイパ一束であ り,基礎的な概念であるが, Lie群の表現論の初学者にとって,その幾何的 トな複素多様体上の正則な直線束の正則切断の空聞に,既約表現を幾何的 なイメージがわかりづらい とが多いように思われる. に構成することもできる(BorelWeil理論).有限次元表現論における,解 ζ そとで第 10章では,「切断を理解する」ことに視点をおいて,同変ファイ 析的な手法,代数的な手法,幾何的な手法の三者を結びつけるのが Weylの バ一束を初等的なレベルから解説する.特に,等質空間上の同変ファイパ一 ユニタリ・トリックである.その手法は正則関数の一致の定理と解析接続 束の不変元を解釈するととによって,等質空間上の不変測度(§ 6. 4)や不変 に基づく初等的なものであり,その結果はかなり有用である 第 12章では, Riemann計量の存在に関する判定条件を与え,また,等質空間や Lie群のコ Lie群の表現論における「複素化と実形」の関係を系統的に扱う.さらに等 ホモロジ一群の計算を行い,さらに,コンパクト単純Lie群の基本群が有限 質空間やその離散群による商多様体である CliffordKlein形にも Weylのユ 群であるという Weylの定理(§ 6. 5)の別証明を与える(§ 10. 5). ニタリ・トリックを自然な形で拡張する(§ 12. 3).例えば,特性類に関する Hirzebruchの比例性原理がWeylのユニタリ・トリックによって一般化され