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Hiroshi Abe, France Dhorne, Yoshitaka Haruki, Yoko Iguchi, Hidetake Imoto, Koichi Ishino PDF

192 Pages·2017·2.92 MB·English
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川口順二教授退任記念論集 『川口順二教授退任記念論集』 喜田 浩平(編) © the several contributors, 2012 iii まえがき 慶應義塾大学文学部教授の川口順二先生が2013年3月をもって同大学を定年退任されます. 本論集は,川口先生を敬愛してやまない友人知人や教え子がこれを記念して執筆した文章を集 めたものです. すでに慶應義塾大学藝文学会が機関誌『藝文研究』第103号(2012年)を同趣旨の記念号と して刊行しました.これは同大学文学部の同僚が中心となって作成したもので,いわば「公的」 な論集です.本論集は,各執筆者の個人的な思いに端を発し実現したもので,多分に「私的」 な特徴を備えています. 川口先生は慶應義塾大学での教育に寄与し,また研究活動によってフランス語学・文学や言 語学に大きな足跡を残されました(川口先生の略歴や研究業績については上記『藝文研究』ご 参照ください).それに加え,日本フランス語学会の発展のために奮闘されたことをぜひともこ こに記しておきたいと思います.川口先生は同学会の様々な活動の企画運営では中心的存在と して文字通り東奔西走され,機関誌の刊行における煩瑣な作業にも常に立ち会われ,例会では 活発な議論を通じて後進の指導に力を注がれるなど,筆舌に尽くしがたい貢献をなさいました. 現在,同学会がフランス語学研究の日本における傑出した研究拠点として機能しているとすれ ば,それは川口先生のご尽力なしにはありえなかったことと確言できます.本論集の参加者も, その多くは同学会の活動を通じて川口先生とゆかりの深い方々です. 退任記念論集というものは一般に単なる社交辞令に過ぎないことがあります.また,それが 捧げられる当事者の研究活動に終止符を打つような印象を与えることもあります.しかし本論 集の刊行にはそのような意図は全く含まれていません.退任は一つの区切りに過ぎず,川口先 生にはこれからもますますフランス語学・文学や言語学の分野でご活躍いただきたいという願 いが込められています. 諸般の事情によりPDFファイルのWeb出版という形態をとりましたが,日頃iPadを愛用さ れる川口先生には返ってお喜びいただけるのではないかと期待しています.近い将来,本論集 の内容について川口先生と楽しく議論する機会を持ちたいと願う次第です. 2012年12月 喜田浩平 iv v 目次 空間移動表現の意味拡張について 「くる」とvenirの場合 1 阿部 宏 Quand les restaurants restauraient 15 France Dhorne フランス語におけるオノマトペ効果について 25 春木 仁孝 中間構文と総称的受動文 39 井口 容子 反実仮想条件文に見られる半過去に関する一考察 45 井元 秀剛 対立の接続詞tandis que, alors que, pendant queの意味と用法について 55 石野 好一 一人称のトリック的用法について 61 泉 邦寿 メトニミ・メタファと人物名をめぐって 「区別の解消」と「抽象度」 69 川島 浩一郎 「発話者」から「トーン」へ 論証的ポリフォニー理論の可能性 81 喜田 浩平 vi Émile Benveniste lecteur des penseurs antiques sur Noms d’agent et noms d’action, pp. 166-167 et Catégories de pensée et catégories de langue 89 Kazuya Maejima 商品名をめぐって 冠詞の使用と発話者の態度 97 中尾 和美 アイロニーの談話戦略 フランスの新聞・雑誌におけるアイロニーを例として 109 西脇 沙織 副詞justeとその周辺 117 小熊 和郎 Transmettreがあらわす伝達と全体性 137 須藤 佳子 フランス語と日本語における指示と照応 談話モデルの観点から 149 東郷 雄二 Toujoursと「やはり」 ステレオタイプ再確認型の副詞 173 渡邊 淳也 1 空間移動表現の意味拡張について 「くる」とvenirの場合 阿部 宏 東北大学 0.はじめに 空間移動を表す代表的な動詞である「くる」と「いく」は,原則的に「くる」であれば発話 者の方に近づく,「いく」であれば発話者から遠ざかる,という意味であり,出現頻度が高い基 本語彙であるという以上に,発話者=基準点を指向するという点で他の移動動詞とは性質を異 にしている1.他方,発話者指向という点では,いわゆる直示表現である「ここ」や「いま」と むしろ共通性があり,これが「くる」と「いく」が直示動詞とも呼ばれる所以である. ところで,各国語で「くる」と「いく」にあたる語彙は文法化の対象になりやすく,補助動 詞化して種々の派生的意味を発達させ,多義化しているが,例えば (1) のような日本語の「く る」や (2) のようなフランス語の venir においては,文法化の程度はまだ低く,元々の空間的 意味は十全に保たれており,日本語とフランス語で意味的平行関係も観察される. (1) 彼女は私に会いに来た. (2) Elle est venue me voir. 他方,空間的意味から変質した用法として最もわかりやすいのは,フランス語における近接 過去形venir de inf. や近接未来形aller inf. のような時制形成辞としての機能であろう2.ただし, 日本語の「くる」と「いく」は,始動相を表す「暖かくなってきた」に典型的に見られるよう なむしろアスペクト・マーカーの方向に用法を発達させており,(1) と (2) のようなまだ文法 化が進んでいない用法を別にすれば,「くる」とvenirの対照においても,「いく」とallerの対 照においても,意味拡張の様相は一見かなり異なっているように思われる. しかし興味深いのは,時制化の方へであれアスペクト化の方へであれ時間概念の方への比喩 的意味拡張という点では,共通するものがあり,また,また両言語ともに,空間概念でも時間 1 主語が発話者自身である「私はまた仙台に来ます」,「私は仙台に行く」のような場合であっても,原則として発 話者が現在いる場所が基準点となる.なお,「いく」には「彼は転勤で今度は東京から大阪に行く」など,発話者は 基準点として機能せず単なる移動のみを表す用法もある. 2 例えば,Bybee et al. (1994: 105) は過去時制の成立について,類型論的観点から,i) BEとHAVE,ii) COME,iii) FINISHと GO(のような移動表現),の三つの起源の存在を指摘している.フランス語では複合過去形は i) に,venir de inf.は ii) にそれぞれあたり,aller inf. は過去とは逆の未来の方へではあるが,やはり時制形成辞として文法化し た. 2 概念でもないより抽象化した用法をもっている,ということである.したがって,両言語にお けるこれら移動動詞の補助動詞的用法の対照は,日本語とフランス語との外界把握の違いを浮 き彫りにしてくれるだけではなく,ある種の言語普遍的側面をも窺わせてくれるように思われ る. 1. 先行研究 川口 (2006) はこれまでほとんど分析対象になっていないallerの空間移動や時制形制辞以外 の用法に着目し,これら種々のモダリティ的用法の起源に「出発点(発話者)」から「到達点」 への空間移動概念の比喩的意味拡張がある,とする.Forest (1993) はvenirやallerを含めたあ る種の動詞の補助動詞(explicateur)化は類型論的にけっして稀な現象ではないこと,またForest (1999: 59) は « « aller » est le terme qui correspond à une empathie contrariée, alors que « venir » correspond à une empathisation plus «normale» et continuiste, » という興味深い指摘を行っている. 川口・阿部 (1996) はフランス語の具体例を素材として文法化研究の現状を紹介したものであ るが,この中で文法化の一側面としてのメタファー化や主観化に言及している.徐 (2010) は 韓国語の補助動詞ota(くる)とe kata(いく)に,日本語ほど多義化されていないとはいえ, やはり類似の用法が観察されるとする.これらは「くる」や「いく」,venirやallerの多義化現 象の解明にヒントを与えてくれる貴重な考察である. フランス語と日本語との対照研究としては,泉 (1978: 154) が,フランス語では (3) と (5) の ように移動は動詞だけで表されるのに対し,日本語では (4) と (6) のように補助動詞としての 「くる」と「いく」が付加されることが多く,これは移動が発話者の位置との関係でとらえら れやすい日本語の傾向を反映している,とする. (3) Il court vers moi. (4) 彼は私の方に走ってくる. (5) Françoise s'est avancée vers nous. (6) フランスソワーズは私達の方に進んできた. 守田 (2011) もまた,(7) と (8) に見るように,フランス語から日本語,また日本語からフラ ンス語への翻訳を対照させ,日本語の同種の傾向を指摘している. (7) A chaque arrêt, j'observais les gens qui montaient, survaillais les visages. (Salle) (8) ぼくは停留所ごとに,乗ってくる人を観察し,警戒した. ところで,(4) の「走る」や (6) の「進む」において,これらの行為と補助動詞「くる」が 表す行為は同時進行であり,「くる」はいずれにおいても元々の空間移動の意味を保っているの に対し,(8) の「くる」は空間移動概念が希薄化し,単に「乗る」という空間移動が発話者の 方向に向いた行為であることだけを示しているかのように思われる.つまり,空間移動用法に 3 おいても補助動詞「くる」はすでに多義的である.また, (9) のように空間移動動詞以外の動 詞に付加されれば,「くる」は始動相のようなアスペクト・マーカーとして機能するようになる. これらの各ケースは,フランス語ではどのように表現されるのであろうか?また,空間移動で もなく,アスペクト・マーカーでもない (10) のような「くる」や,やはり空間移動でもなく 時制形制辞でもない (11) のようなvenirについては,どう考えるべきであろうか.本論で扱っ てみたいのは,具体的にはこの種の問題である. (9) 空がだんだん明るくなってきた. (10) 彼は僕の仮説について反論を書いてきた. (11) Par ailleurs exprime donc une concession que l'on fait à la vérité, mais qui ne vient pas nuire à l'affirmation. (Bernard Cerquiglini (2008) : Merci Professeur !, Bayard, p. 27) 2. 「くる」の多義性と日仏対照 補助動詞「くる」の多義性については,研究者によって語義区分が必ずしも一致しないが, 代表的な研究である坂原 (1995),澤田 (2009),森田 (1968) の各用法のラベルを対照表にまと めると以下のようになろう. 坂原 (1995) は各語義の関係について,まず<継起>と<同時>に分岐し,<継起>から< 継起系往復運動>が派生したとする.他方,<同時>からは,<移動方向>,次いで<授与方 向>の派生,また,<同時>から<継続>へ,<移動方向>から<始動>へ,<授与方向>か ら<受益・受害>へ,という派生のルートを想定している. 澤田 (2009) は,坂原 (1995) によって指摘された<受益・受害>の意味のうち,「くる」が 担うのはもっぱら<被害>(=坂原の<受害>)の方であり3,またその<被害>も語彙的意味 ではなく語用論的意味である,としている. また,森田 (1968) は坂原 (1995) にも澤田 (2009) にもない「経験」用法に言及している. 坂原 (1995) 澤田 (2009) 森田 (1968) 継起 継起移動 順次 継起往復運動 同時 同時移動 平行 移動方向 移動方向 一つの動作・作用 継続 継続 継続 3 これはForestの主張するvenirの意味基盤と矛盾する現象であり,興味深い.澤田は,日本語では補助動詞「くれる」 があるために,「くる」は<受益>を表さない,とする. 4 経験 始動 変化 発生,開始,進行 授与方向 行為方向 受益・受害 (被害) ところで,これらは大まかに,(甲)空間移動系:空間移動を表す動詞が従属動詞になり,「従 属動詞+くる」全体としても空間移動を表す,(乙)アスペクト系:空間移動以外の動詞が従属 動詞になり,「くる」はアスペクトを表す,(丙)働きかけ系:空間移動以外の動詞が従属動詞 になり,「くる」は事態の発話者への働きかけを表す,に三分類され,それらはさらに以下の各 用法に下位分類されると考えられる.(坂原の<受益・受害>用法については,本稿では扱わな い). (甲)空間移動系 A) <継起> パンを買ってくる.太郎が東京で遊んできた. B) <継起系往復運動> パンを買いに行ってくる.案内板を見てくる. C) <同時> 太郎は花子を連れてきた.太郎が,畦道を走ってくる. D) <移動方向> 太郎が帰ってきた.見知らぬ男が近寄ってきた. (乙)アスペクト系 E) <継続> 私は,この商売をして生きてきた.灯りががだんだんついてきた. F) <経験> 彼は海外生活も経験してきて話題が豊富だった. G) <始動> サボテンが枯れてきた.雨が先ほどから降ってきた. (丙)働きかけ系 H) <授与方向> 太郎が本を送ってきた.太郎から,電話がかかってきた. 空間移動系において,<継起>は従属動詞の行為と「くる」が継起的であること,<継起往 復運動>は従属動詞の行為を行うために出発してまた戻ってくること,<同時>は従属動詞の 行為と「くる」が同時であること,<移動方向>は従属動詞によって表される空間移動が発話 者の方向においてなされること,をそれぞれ表す.アスペクト系において,<継続>は従属動 詞の行為・状態の現在までの継続,<経験>は従属動詞が表す行為の経験をもっていること, <始動>は従属動詞の行為・状態が開始され現在に至っていること,をそれぞれ表す.働きか け系の<授与方向>は従属動詞の行為が発話者に向けて行われること,を表す.

Description:
Hiroshi Abe, France Dhorne, Yoshitaka Haruki, Yoko Iguchi, Hidetake Imoto, et al. Japan. 2012. HAL Id: halshs-01511628 https://halshs.archives-ouvertes.fr/halshs-01511628. Submitted on 21 Apr 2017. HAL is a multi-disciplinary open access archive for the deposit and dissemination of sci-.
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